10月7日日曜日、今シーズンの川釣り最終日は、ノルマンディーのホームグラウンド、フリーガンにて過ごしました。そして、今シーズンの釣りの中で最も納得できる結果を出すことができました。有終の美を飾ることができ、嬉しかったです。
7時過ぎ、まだ真っ暗な中を出発。今回の待ち合わせはいつもより1時間早い8時。何でも引き続き「狩り」の予定がある、とのことで、若干早めの時間を指定されていました。少し遅れそうで、高速道路を少しだけ飛ばして行くと、早くも靄が出てきました。前回は高速の上では大丈夫だったような。。。悪い予感がします。
いつものエッソのパーキングでサンドウィッチ等を購入し、高速をおり、N13を走り抜けてエヴルーを通過。この段階で既に8時10分になろうとしていたことから、エヴルーの街を抜けて左折した当たりで「遅れましたがあと少しで到着します。」とボーさんに電話したところ、「えっ」との反応。「9時じゃなかったでしたっけ。」「いや、狩りがあるから8時に、とおっしゃいました。」そこで電話が圏外となり一旦途切れる。フリーガンに到着したところ、相変わらず鍵が掛かっていない。再び圏内となった携帯にボーさんからのメッセージが残っていたのを受けて電話。「鍵が開いているので車を中に止めておきます。」「そうしてください。自分もこれから出発します。」
外気温は5度。フリースを着てきてちょうどよかった。支度を一通り調えて、久しぶりに野外でコーヒーをいれました。ぽこぽこと音を立てて沸き立ってきて、白い湯気が注ぎ口から上がってくると、それだけで満たされたような気分になります。
やがてボーさんが到着。握手の後、情報交換会。「今日は貴方一人です。」「え、ゴーチエさんが一緒だったはずでは?。」「彼は先週来ました。大きいのばかり9匹釣ったようで、釣った本人が驚いていました。その前1週間は誰も入っていなかったので、フィッシング・プレッシャーが低かったおかげかも知れません。ゴーチエさんが入ってから今日までも、誰も入っていませんよ。」なになに、状況はいいかも知れないぞ。
「ところで、貴方は狩りもするのですか。」とボーさんに水を向ける。「はい、シーズンが始まったところです。自分は狩りのフィールドも所有しています。」「どんな人たちが来るのですか。」「アメリカ人、イギリス人、スウェーデン人、いろんな国から来ます。主にアングロ・サクソンの人たちが多いでしょうか。」「日本人は来ますか。」「日本人は釣りには来ますが、狩りには来ませんね。」「ヨーロッパでは釣りよりも狩りの方が一段高く見られている、と読んだことがあるのですが。」「それは確かです。ただ、狩りの方がそれを取り巻く産業がしっかりしている、ということも理由の一つでしょうね。」「産業?」「獲物を飼育して放したり、様々な道具を作る産業とその販売網です。」「免許は必要なのですか。」「はい。筆記試験もあります。主として安全面を確認するためのものです。そして、実技試験として、実際に鉄砲で次々に現れる皿を撃つ、というものがあります。色が違う皿は禁漁の野鳥を意味していたりします。それに合格してフィールドに出ることになります。ここでの獲物はイノシシです。フランスでイノシシ猟をした、という経験をするために来る人がほとんどです。」「そういえば、アステリックスでもイノシシはよく狩りの対象になってますね。」「その通り。ガリアの伝統です。」そんなことを話していたら遠くで猟銃の音がこだましました。「あれです。シーズンが始まりましたからね。」
2月のスポーツ・フィッシング見本市での再会を期してボーさんとはお別れ。そう言えば、昨シーズンの最後もここで釣りをし、2月の同見本市で会いましょう、と約束をしていたような気がします。あの時はゴーチエさんと一緒でしたが、今回は一人。今シーズン最後のフリーガンは、贅沢な貸し切りでの釣りとなりました。
コーヒーを飲みきってフィールドに出たのが9時15分。いつもよりも遙かに早い出発です。そして、さすがにここ1週間人が入っていないだけあって、随所に巨大な魚影が見える。こちらの影を見てもすぐに逃げ去っていくという感じでもない。大柳のすぐ下流に一匹、すぐ上流には5匹ほど、40センチ・アップが溜まっている。が、が、が、やはり前回と同様、反応してくれず。。。竿の影におびえて逃げ出さないのはよいとして、ニンフを流しても流しても反応してくれない。前回の勝負パターンだったビーズヘッド赤マラブーも無視。オレンジに変えてみたところ、魚の向こう側に流れてしまった、とティペットが体に触ったのか突然にその魚がダッシュしてしまい、結果スレてしまいました。あぁあぁ、と思っているうちに、リールからものすごい勢いでラインを引っ張り出した彼は、ティペットの結節点を見事に切ってくれました。気の毒なことをしてしまった。
魚も散ってしまいました。まあ、いいか、とりあえず少し上流の様子を見てみよう、と立木を一本過ぎたところで何の気なしに川中を眺めやったところ、少しエメラルドがかった色をした巨大なグレイリングが水底に定位しているのが目に飛び込んできました。岸からの距離およそ5メートル。さっきリールに格納したばかりのラインを再び引っ張り出し、26番のフェザント・テイルを流し込む、が、反応がない。少し大きめのフライで気を引いてやろうか、と12番のモンカゲ・パターンにしてみたものの、さすがにこれは完全に無視。それでは、と実績のある18番のビーズヘッド・ヘアーズイヤー(白)を結びキャスト。若干重くなるが故に距離感のコントロールが難しい。しかも、10センチ離れたところを流れると完全に無視される。ううむ、近眼なのだろうか。
岸からの距離と沈下スピードを考慮してのキャスティングを繰り返します。なかなか上手く入らない。と、何投目か、「入ったぁ、よし」と声が出たくらいちょうどのところにフライが落ちました。そのフライが彼のほんの鼻先を流れた時、ちょっとだけ顔をそちらに向けたのが見えた。「食ったか?。」おそるおそる合わせたところ、水中でギラリと魚が悶えました。見事にフッキング。さあ、暴れるかな、と身構えたものの、ファイトはほとんどなし。あまりの驚愕で抵抗する気が無くなったのか、それとも寄る年波のせいなのか、さらには何度も修羅場を乗り越えてきた商売魚故なのか。ほとんど無抵抗でネットに収まったのが、自分にとってのコースレコードとなる49センチでした。時刻は9時45分です。

まだ釣り初めて30分しか経っていないのに、この成果。静かに巨大な老体を水中に返してやったら、どっと嬉しさが込み上げてきました。と同時に、もうこれで釣りを切り上げて帰っても良いかな、なんて気になったりするあたり、思い出すにつけ恥ずかしい限りです。これで今日一日の運を使い切ったのかも知れないぞ、というくらい謙虚な気持ちになることが必要だったのです。。。


実際、その後のフリーガンは沈黙が続きました。やっと靄が晴れ始めたのが11時半を過ぎてから。魚の姿が一層見つけやすくなったこともあって、気合いを入れて臨むのですが、無視が続きます。大柳のさらに下流、水草が茂っている地帯で40センチを超える個体数匹が底に張り付いているのを発見し、真横2メートルまで近づいて何度もトライするのですが、鼻面に流し込んでも微動だにしない。その不動振りに「行者」と名を送ってやり別のポイントへ。そして結局何も起きないまま13時が過ぎてしまいました。相当手強いぞ。
すっかり晴れ上がった空の下、青々とした下草の上に寝椅子を広げ、サンドウィッチの昼食を取りました。時々通り過ぎていく車の音、猟銃のこだまする音のほかは、静かな水音と鳥の声、風の声しかしない気持ちの良い午後の時間、これだけ晴れ渡ったら釣りにはならないだろう、と、午睡を楽しんでしまいました。弱まったとはいえ直射してくる日光の熱を水面を渡っていく10月の風が冷ましてくれる。。。ここ数日の忙しかった日々のことが浮かんでは消え、消えては浮かぶ、α波に満たされた微睡みの時間は2時間あまり続きました。
15時半過ぎに釣りを再開。さて、そろそろ本当に釣らないと。ゴーチエさんは9匹だったんだぞ。急に競争心に火がついたようになり、まずは一匹を、と最上流域の橋桁ポイントへ。相変わらず30センチを超える良型が数匹動いていて、時々何かを食べている。よしよし。
2度ほど口を使わせるのに成功したのに合わせきれず、ここでの1匹は16時半過ぎ、ビーズヘッドのフェザントテイル28番を沈ませてピックアップした時に釣れてしまった28センチのグレイリングでした。

ちょっと気が楽になり、再び下流に戻っていき、ライズを狙っていたところ、17時少し過ぎ、上流で草刈りでもやったのか、水面に草の固まりが大量に流れてきてしまい、ライズもピッタリを止んでしまいました。今日、最も心が折れ掛けた一瞬です。今シーズンの最終日でなければここで竿をたたんで帰ってしまったかも知れません。やっとライズが頻発してきた中での嫌がらせのような草の来襲。何故こういうことになるのだろう。これも我が身の業の深さ故か。。。
この時も自分を引き留めたのは「ゴーチエさんは9匹」という言葉でした。ここで帰ってしまったら自分に負ける、そんな訳の分からない理屈も駆使しながら写真を撮ったりして待っていたら、やっと草が途切れてきた。そして、再びライズが。。。