今日はピカルディー地方はコンピエーニュ近郊にある小さな街、ピエールフォンで開催されたトレイル・レースに出場してきました。32キロ、アップが800メートルというタフなコースで、ゴールはピエールフォン城の「足下」とのこと。パリ・マラソンを視野に入れ、そろそろ30キロを走っておいた方がいいだろう、というのが一つと、フランスの掲示板によればオーガナイズが大変上手く行っており、「トレイルの入門に最適」とのことだったことから、2月5日に覚悟を決めて申し込んでいたものです。ピエールフォン城は19世紀後半にヴィオレ=ル=デュックによって修復が行われた城郭で、以前一度、2007年4月29日に訪問したことがありました。歴史は浅いものの、街を見下ろして聳える圧倒的な迫力があるお城です。そのお城の「足下」まで行く、ということは、もしかすると「あの」坂道を登ってゴールなのかしらん。。。
トレイル・レースは昨年、7月6日のソローニュ・クラッシックで22.2キロというのは経験しているのですが、あれは若干のアップダウンはあってもさほど急勾配でもなく、結局2時間で走ることができたという点ではほとんど平地のレースのようでした。今回は32キロという距離もさることながら勾配がどの程度なのかが分かりません。不安一杯で準備をし、5時45分、真っ暗ななか家を出ました。
日曜日の早朝、しかも冬のヴァカンス中ということもあって、ピエールフォンの街までは1時間少々。車内で昨晩用意しておいたおにぎりを食べておきエネルギーを蓄えます。街に入った後、さてゼッケン引き取り所はどこかしらん、と街の辻に立つ看板を覗き込んだら、「ゼッケン引き取りはこちら」という紙看板が出ていて全く迷うことなく目的地にたどり着きました。そして、引き取り所になっている体育館の駐車場に車を停めることが出来たのも嬉しいところ。あと10分遅れていたら一杯になるところでした。ゼッケンは288番。スムーズな引き取りができました。アジア人は自分一人のようで、周囲から奇異の眼差しを浴びることとなりました。
最初、膝までのタイツで走ろうか、と思っていたのですが、まだ暗い駐車場でウォームアップをしているいかにもトレイル慣れした人たちはくるぶしまでのタイツをはいている。多分、それが正しいのだろう、と持ってきていた長タイツに履き替えました。他方、一つ大いなるミスを犯したことに気付きました。ウィンド・ブレイカーを持って来るのを忘れた。。。Nike Proのタイトフィット・インナー(半袖)にNike Fitの長袖シャツを合わせたのですが、その上に羽織るべきウィンド・ブレイカーを持って来なかった。。。一緒に走る人たちは皆、それを着ています。試しに車の外に出てみたら大変寒い。大いなる失敗です。こういう経験を通じて人は賢くなっていくのだろう、とは思いますが。。。
8時に車を出て、出発地点までピストン輸送を行っているバス(通学バスでした。街の所有物でしょうか)に乗り込み、隣町へ。ピカルディーのだだっ広い畑を見ながら、一体どこにトレイルができるような山があるんだろう、と不思議に思ったのは、進行方向右側に座ったからかも知れません。あっという間に到着し、教会前のスタート地点へ。600人の制限人数に到達したのかどうかは分かりませんが、かなりの人混みとなりました。エネルギー・バーとOverstim・sの抗酸化ジェル(Antioxydant)を摂取し、スタートに備えます。集まっているランナーたちを見ていて、皆が年季の入ったシューズを履いているのに圧倒されました。おろしたての靴を履いているのは自分くらいではなかろうか。片方の靴の裏でもう片方の靴を踏んでウェザリングを施したりしながら、緊張感を高めていきます。






定刻を5分遅れの9時05分、スタート。チップによる計測がないため、タイムを計るには自分の時計だけが頼りです。そして、そもそもこういうレースではタイムというものはあまり意味を持たないことに、走り始めて5分後、まだぬかるみの残る未舗装路に入り込んだときに気付きました。こういうレースではタイムはあまり問題になりません。もの凄い登りにさしかかると、皆当然のように走るのをやめ、歩き出します。ああ、そういうことなのか。もちろん、先頭集団はこういう場所でも走り抜けているのかも知れませんが、歩くことにも市民権が十分に与えられているこういうレースでは、タイムのことを気にしても仕方ない。












急な登りがあればだだっ広い畑の中の1本道もあり、ぬかるんだ急な下りがあれば低木の間を抜けていく気持ちの良い落ち葉の道があり、時折倒木や水たまりが行く手を阻んでいたりする。木の根が張り出していたり、滑りやすくなっていたり、石が付き出していたりする道を走るのは、どこに足を置いたら良いのかを瞬時に判断しなければならないという点で、登山に似て、大変頭を使う作業でした。それと、くるぶしまでの長いタイツにしたのは正解。結構、脛の辺りに当たる木の枝があったりして、膝までのタイツだった場合、直接それが肌に当たることになります。いろんなことを勉強させてもらいました。
先々週購入しておいたトレイル用のリュック(ビニールの水筒が入り、チューブが胸まで伸びてきていて、走りながら給水が可能)のありがたみをつくづく感じました。きつくなってきた時に少し水を飲むだけで随分体が楽になります。
スタート前にMCのお兄さんが言っていたところによると、給水地点がある17キロ地点まではそんなに大変ではない、17キロ地点から先の15キロが大変だ、とのこと。いえいえ、17キロ地点までの区間も十分大変でした。が、確かにそこからがきつかった。家に帰ってからPOLAR心拍計のデータをパソコンに取り込んで見てみると、高度差30メートルから80メートルほどある登りを15キロの間に8回、繰り返している。道理で。そして、この区間を乗り切るに当たって、自分に一つルールを課しました。「一定以上の登りの区間では歩いてもいいが、平坦な区間、下りの区間は走り続けよう。」そして、おそらく同じようなルールを自らに課している人たちが前に後ろに居てくれたのも、自分のこのルールを遵守する助けになりました。仮に一人だったら、あるいは、周りにいる人たちの数が多すぎて自分が匿名の存在になっていたらこうはいかなかったのでしょうが、レースも後半にさしかかってくるとだいたい同じペースの人たちが集まった5人程度の小集団が出来あがっていて、抜きつ抜かれつを繰り返すうちに少しずつ顔やユニフォームで近隣の人と知り合いになってしまっているため、誰かが走り出すと周りの皆が走り出す、という好循環ができあがっています。トレイル・レースの楽しみの一つでしょうか。




登りの時は歩いているとはいえ、急な坂をぐんぐんと登っているので、20キロを超えたあたりから膝はぱんぱんに張ってきます。そんな時に走るのは大変きつい。そのきつさを和らげるために使った戦法が3つ。一つは「楽しいことを思うこと」で、可愛い甥の写真を思い出したりするとすぅっと体が楽になりました。二つめが「無理にも笑顔を作ること」で、「何でこんなにきついんだ」という半ば自虐的な笑いであっても、体を楽にしてくれました。そして三つ目は、30キロを超えた地点で冷たい風に吹かれながら畑の中の直角カーブを曲がった時に思いついたのですが、「苦しいと思わないようにすること」でした。膝が痛い、脚がつりそうだ、呼吸が苦しい、背筋が痛い、といろいろな不平不満が体のあちこちから脳に信号として届けられるのですが、脳の方で「だから何?」という姿勢を維持するのに成功すると、案外走り続けることができる。「意思の力」「おもねらないこと」「不感症」、もっと適切な用語があるのかも知れませんが、この三つ目の方法はランニング以外の様々な局面で応用できそうです。
舗装道路に出て下っていった先、道路で車を止める役割をしている人に「日本人ですか?」と呼びかけられ、「そうです。あと何キロ残ってるんですか。」「1キロ少々ですよ。」気持ちが楽になるとともに、残りは走り続けよう、という気になりました。残された距離が分かると、その間に全力を使い切ろうという気持ちになれます。やがてお城が見えてきた。さっきのおじさんは「あとはくだるだけ。」と言っていなかったっけ?。そうなるとお城の「足下」というのは下の方なんだろうな。いや、でも去年の写真ではお城の坂を駆け上がっているような写真があったけど。。。



やがて道が登り始めました。やっぱり下りだけではなかったんだ。。。既にゴールした人たちが坂道を下ってきます。「Bravo!」「Allez! Allez!」「Courage!」様々な励ましの言葉をもらいながら上り坂を走り続けます。少し前なら歩いて登ったであろう坂道ですが、ここまで来たらもう大丈夫。そして不安は的中。やはりゴールはお城の中となっていました。よし。まだ煙草を吸っていた時分に息を切らしながら歩いて登った上り坂を今は走って登っている自分を誉めてあげながら最初の登りを終え、ぐるっとお城の周りを巡った先、さらに急な坂を走って登っている人の姿が見える。えええ。。。全貌が見えるところに来たところ、最後にさらに登りがあって、その先にブルーのゴール・ゲートが置いてあるのが見えました。そのとき、Nike+からは「3時間55分経過」のアナウンスが。この様子だと4時間を少し超えてしまうかも、と思いつつ、最後の坂道を走って上がっていき、ゴール地点で応援してくれている人の声とカメラとテレビカメラに励まされながらゴール。後で時間をみたら「3時間56分51秒」との表示。そしてゴール時の心拍数は100%MAXになっていたようです。即日出た結果では、完走者557人中472位だった、とのことであり、本格的トレイルは事実上初めてだった自分としては健闘したのだろう、と思います。他方、トップは2時間16分でゴールしている。多分、自分が歩くことを是とした坂道も走り続けなければこのタイムは出ないでしょう。恐るべきことです。
ゼッケンは後ほど行われるくじ引きで使われるとかで取られてしまいました。出発時に荷物を預けた人はゴール地点で引き取れるようになっていて、フリース等を預けておかなかった不明を悔いましたが、まずは車へ向かおう、と、張った脚をそろりそろりと出しながら坂道を下っていきます。駐車場までがちょっと遠かったのが辛かったですが、それでも15分程度。ちょうどクール・ダウンになったのかも知れません。車に辿り着いた時の安堵感といったらありませんでした。
バドワとおにぎり2個でとりあえずのエネルギー補給を行い、体育館で昼食を取れるとのことで向かっては見たものの、あまりの行列の長さに辟易として、すぐにピエールフォンを後にしました。誰かと一緒ならまだしも、一人であのお祭りの中に入っていくのも億劫でしたし。
そして、教訓がもう一つ。レースで使う靴と会場まで行く時に使う靴は使い分けた方がいい、ということを思い知らされました。思い切り濡れて、泥まみれの靴のまま、帰ってこなくてはならない羽目となったことからの後知恵ですが、このことは今後ずっと守っていくことになるだろうと思います。
15時過ぎに自宅に帰還。何よりも先に靴を洗い、お風呂に浸かり、洗濯機を回しました。夜には切れた筋肉繊維の修復を助けるため、スキヤキ肉を焼いておろしポン酢で食べておきました。今日のところは筋肉痛はさほど激しくないのですが、明日・明後日はどうなっているか。とにかく早く寝てしまい、来週に備えることにします。
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